後悔と未来の狭間で。
本業はエンジニア。
いわゆる大規模開発やらインフラのチームの面倒も見ていた。
見ていた、だ。
一部チームを解散させた。
このチームは自律的に動ける人間が少ないためどうしても手間がかかっていた。
売り上げは悪くはない。
だが、解散させた。
自分で取った仕事だから自分の意思を通して解散させた。
理由はこの病気を抱えながら、そして悪化していくこの身体では自分がもたないと判断したからだ。
まあ、これで営業成績は厳しくなるが。
今まで意地でやってきた。
しかし、心がもたなくなった。
あのまま続けていれば再起不能になるのは半年かからなかっただろう。
異常なほど集中力だけはあった。
目の前から世界が消えるのは普通、いつでも簡単にそんな状態になれるぐらいの集中力だけはあった。
今考えると痛みが集中力を鍛えてくれていたのかもしれない。
だから深い集中状態にはすぐダイブできた。
それがもう難しくなっていた。
痛くて痛くて意識を保つことすら危うい日が増えてきたからだ。
そんなある日、潮風にあたり昔の朧げな記憶が自分を振り返らせてくれたことは以前にも書いた。
寂しい気持ち、これで良かったのかという後悔にも似た気持ちを抱きながら自問自答を繰り返す日々が続いている。
今の仕事を続けるのはいずれ難しくなる。
だから、もうエンジニアでいることをやめた。
心の中だけだがそう宣言した。
もう、俺はエンジニアを辞めよう、と。
ここまで色々あったが後悔は全くない。
むしろ、こんな身体でよくやってきたな、と自分を自分で褒めたい。
そう、よくやってきた、と思う。
そうしたら何か自分の中で吹っ切れるものがあった。
そうだ、忙しくて登れなかった北アルプスをまた登ろう。
ちょうど登りたかった積雪期だ。
冬山道具もまだあるし、天気に気をつけつつ、まあ、いけるとこまで行ってみよう。
だめなら、山小屋で停滞して引き返せば良いだけだ。
初めての北アルプスは涸沢までだった。
沈みゆく夕日を独りで眺めていた。
太陽が稜線から消えるその瞬間までずっと眺めていた。
登山を始めたばかりの頃に見た涸沢の写真。
こんな美しい景色が日本にあるなんて。
いつかここへ登ろう、同じ景色をみるんだと決めて。
コツコツと色々な山を登り、道具もあれこれ集め気がつけば大変ではあったがなんとかたどり着くことができた涸沢。
それから何年かすると更に先の北穂高に登り、涸沢岳、奥穂岳、前穂岳も何度か縦走したな。
あの景色の美しさに心奪われ、未だ北アルプスを行ったり来たりしている。
動けなくなる前にもう一度あの美しい景色を見に行こう。